ホリエモンこと堀江貴文氏が出資する北海道大樹町の宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズ(IST)が5月2日に予定していた小型ロケット「MOMO5号機」の打ち上げを延期した。新型コロナウイルスの影響を重くみた大樹町が要請して決定された今回の延期は、ISTにとって大きな痛手となった。
延期は関係者にとっては苦渋の決断だったものの、北海道は引き続き宇宙ビジネスを進めていく上での優位性を持っており、期待は大きい。そのことを示したのが、2019年10月に札幌市で開かれた「北海道宇宙ビジネスサミット」だ。宇宙ビジネスの現状や将来像を議論しようと、北海道を舞台にしたビジネスやカンファレンス、イベントなどを実施する「NoMaps」主催の「NoMaps2019」のセッションの1つとして開催された。
登壇したのは、日本で民間企業として初めて小型ロケットの宇宙空間飛行に成功したISTの稲川貴大社長と堀江貴文取締役、北海道大学発ベンチャーのポーラスター・スペースの三村昌裕社長、日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus」を運用するさくらインターネットの田中邦裕社長。北海道で宇宙ビジネスを展開する企業の代表が結集した。
ゲストとして、宇宙開発に知見が深い北海道大学公共政策大学院の鈴木一人教授も参加。宇宙ビジネスの関係者をつなぐ活動をしているSPACETIDEの佐藤将史理事兼COOがモデレーターを務め、なぜいま宇宙ビジネスなのか、北海道で展開することの利点などについて議論した。その模様を伝える。

なぜいま宇宙ビジネスなのか
「北海道に築く宇宙産業のエコシステム」をテーマに開催されたカンファレンスには、300人以上の聴衆が詰めかけた。北海道の宇宙ビジネスのキーマンが揃(そろ)って登壇したこともあり、関係者の関心の高さがうかがえた。
モデレーターの佐藤氏は、日本の宇宙開発が政府主導からベンチャーに広がり、国内では現在30社から40社のベンチャー企業があると紹介。その上で登壇者に、なぜいま宇宙ビジネスが必要だと考えているのかを聞いた。
最初に答えたのは稲川氏。ISTは北海道大樹町で19年5月4日、小型ロケット「宇宙品質にシフト MOMO3号機(以下、MOMO3号機)」の打ち上げに成功。日本の民間企業で初めて宇宙空間飛行を実現した。稲川氏は「ロケットの打ち上げを見ると感動します。それが私自身の宇宙ビジネスのモチベーションの1つです」と話し、世界一低価格で便利なロケットを作ることによって、宇宙に人工衛星などの荷物や人を運ぶインフラづくりを実現したいとビジョンを語った。

続いてさくらインターネットの田中氏は、宇宙ビジネスには「衛星を打ち上げる」「衛星を作る」「データを活用する」といった3つの側面があると解説。宇宙から収集したデータを無料で公開するプラットフォーム「Tellus」を自社で展開していることを紹介し、複数のデータを組み合わせることによって今まで見えなかったことが見えてくるといった「データを活用する」ことの将来性について言及した。

ポーラスター・スペースの三村氏は、特殊なカメラを搭載した超小型衛星をすでに5基打ち上げていることを説明。オイルパームなどの農作物の病害を防ぐため、衛星データを活用して病害を特定する取り組みを紹介し、宇宙ビジネスによって農業問題を解決することへの熱意を語った。

日本の宇宙ビジネスは遅れている
続いて、日本の宇宙ビジネスの現状について議論が交わされた。稲川氏は、日本は東側と南側が海で空いているため、ロケットを打ち上げるには世界一の環境であることを説明した。ロケットは東側に打ち上げることによって、地球の自転をうまく使って飛ばせるからだ。
これに対し堀江氏は、恵まれた環境にあるにもかかわらず、日本政府が宇宙開発に力を入れてこなかったことについて疑問を呈した。
その疑問に答えたのは北海道大学の鈴木氏。鈴木氏は政治学が専門で、宇宙開発と国際関係についても研究し、日本や世界の宇宙ビジネスのルールづくりにも関わっている。鈴木氏は、「日本は研究開発を目的にした宇宙開発を進めてきたために、商業化が遅れた。その結果、欧米に比べて宇宙ビジネスでは遅れをとっている」と指摘した。

鈴木氏によると、米国の宇宙産業は軍が支援する形で発達している。ヨーロッパ(欧州)は軍事的な宇宙開発ができなかった代わりに、米国に物を売るために商業化が進み、関連産業が育っているという。日本は2003年にH-IIAロケットの6号機の打ち上げに失敗して、初めて研究開発というスタンスで進めてきたことに危機感を持ち、政策の転換が起きたと説明した。
鈴木氏の話を受けて稲川氏は、米国の宇宙ベンチャーの高い時価総額に比べると、日本のベンチャーへの期待値はまだまだ低いと実感を語った。
マーケットの拡大には「くだらないこと」が必要
ではどうすれば日本で宇宙ビジネスが拡大するのか――。堀江氏は、盛り上がっていないのは真面目な用途にしか使っていないからだと持論を語った。
インターネットが日本で使われ始めたときは、企業が社内のシステムに使おうと考える動きもあった一方、普及した要因の1つはアダルトサイトを見ることだったことを指摘。くだらないことに使われるようになって初めて、マーケットが爆発的に大きくなるのではないかと仮説を展開した。
実際にMOMO3号機は、従来の発想にはなかったものを宇宙に運んでいる。神奈川県相模原市内を中心に飲食店を展開するGROSEBAL [グローズバル]がスポンサー契約をして、看板メニューの「とろけるハンバーグ」が搭載された。打ち上げに成功したことで、ハンバーグが宇宙に到達したと話題になったのだ。
堀江氏は、カメラをつけた紙飛行機を宇宙で飛ばして、ゆっくり地球へ降りてくるところを撮影するなど、宇宙を真面目な用途以外で楽しむアイデアが広がれば、宇宙ビジネスも盛り上がってくるのではないかと述べた。他の登壇者からも用途の広がりを期待する声が上がった。
北海道発の宇宙ビジネスが持つ可能性
最後に、北海道で宇宙ビジネスを展開する利点や、将来のビジョンについて意見が交わされた。稲川氏は、ロケット事業は土地に根差し、関連産業が集まるとして、今後集約していくのは間違いないと話した。三村氏は、北海道が日本の耕地面積の4分の1を占めていることから、病害をいかに早く見つけるかといった点では非常にいい実証フィールドになっていると説明。北海道で得られたデータの蓄積や分析の手法を知的財産に変えていきたいと意気込みを語った。
田中氏は、北海道にインターネットのサーバを置くと、温度が低いために冷却代がほとんどかからず、他の土地に比べて半分の電力で動かせるメリットを紹介。鈴木氏は、ロケットを作る、衛星を作る、データを活用する企業が同じ場所に集まっている点では、北海道は世界でもまれな環境だと指摘し、この動きが進むとアイデアが共有されて新しい付加価値や刺激が生まれてくると期待を述べた。
90分間にわたる議論は白熱し、登壇者と参加者が北海道の宇宙ビジネスの可能性を共有する場となった。堀江氏は、すでに大樹町には当初の予想を超える大勢の人が訪れていると実感を述べ、いま北海道で宇宙ビジネスに飛び込むことは得だと結論づけた。モデレーターの佐藤氏も参加者に「みなさんにも宇宙ビジネスに面白い人を誘うゲートウェイのような役割になってもらえれば、北海道はもっと盛り上がると思います」と呼びかけて、カンファレンスは幕を閉じた。
著者プロフィール

田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピックなど幅広いテーマで執筆。「スポーツ報知大相撲ジャーナル」で相撲記事も担当。Webサイトはhttp://tanakakeitaro.link/。著書に『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)
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