
一般相対性理論の限界を調べるために使われた衛星「マイクロスコープ」。
科学者たちはこれまで何十年にもわたって、一般相対性理論と量子力学を統一しようと挑んできた。その鍵となるのが、重力だ。アインシュタインが示した重力の法則はそもそも正しいのか──物理学者たちはいまや、この法則を懸命に破ろうと、宇宙から「物を落とす」実験を行なっている。史上最も「野心的」な試みでは、2つの物体を宇宙から自由落下させて測定した。その結果はいかなるものだったのか? 果たして統一理論に人類は到達するのだろうか? 科学の探求は続いている。
『WIRED』寄稿者。物理学、工学、データ科学に関する記事を執筆。
高いところから物を落とし、どれくらい速く落ちるかを観察する。赤ん坊が大好きな行動だ。ガリレオも同じことをしようとしたと考えられている。アインシュタインの一般相対性理論によると、地球の重力を受けている物体はすべて、空気抵抗がない場所では質量にかかわらず同じスピードで落下する。しかし、これを間違いと考えるだけの理由はたっぷりある。一部の物理学者たちは、一定の条件下が揃った場合、物体の落下速度にはわずかな差が生じると考え、そのずれを観測するため遠大な試みを続けている。
査読誌『Physical Review Letters』は最近、史上最も野心的かもしれない重力実験に関する論文を掲載した。執筆者はフランスの物理学者たちで、実験の内容は宇宙から物を落とすというものだった。実験に参加したパリ天文台の物理学者、オーヘリアン・ヘスは「宇宙に出たら、あとは物体を放り出せばいい。そこからは長い時間をかけた自由落下です」と説明した。ふたつの物体の落下を長く観察すればするほど、その差ははっきりする。
この実験では、「マイクロスコープ(Microscope、顕微鏡)」という名前の衛星の内部に金属製のシリンダーを2本固定して打ち上げ、そのシリンダーが低軌道で地球を周回しながら落下する間、2年がかりで状態を測定した。シリンダーは異なる種類の合金でできていて、シートベルトのようなもので衛星内部に固定されていた。その高性能のシートベルトには、衛星がわたしたちの頭上70万m余りのところを猛スピードで周回する間、シリンダーが動かないよう押さえるのにかかった力を測定する役目があった。固定しておくのに必要な力が2本の間で異なっていた場合、それはつまり自由落下における加速に差があったということになる。重力の破れが存在するとしたら、2年間の落下であらわになるはずだ。
しかし、違いは現れなかった。2兆分の1パーセントまでの差異を測定できる実験において、2本ともまったく同じペースで落下していたのだ。これは、アインシュタインの重力理論がまたもや確認されたということだった。しかも、その精度は過去に行なわれた実験の100倍近い。ヘスは「一般相対性理論からの逸脱はありませんでした」と語っている。
美しき「ローレンツ対称性」は存在するのか
実験は期待外れに終わった。一般相対性理論は、重力の法則が場所、速度、向きに関係なくすべての物体に同様に働くことを前提としているが、研究チームはその誤りを証明することを特に重要な目的としていた。地球を周回する月も、太陽を周回する地球も、地球に向かって落下していく2本のシリンダーも、一般相対性理論によれば、すべて同じ方程式に従う。重力の働きは宇宙全体で一貫しているというこの仮説は物理学用語で「ローレンツ対称性」と呼ばれ、米インディアナ大学の物理学者アラン・コステレツキーによると、「時空連続体の性質における最も深い対称性」を反映している。なお、コステレツキーは今回の実験にかかわっていない。
ローレンツ対称性は美しいかもしれないが、本当は存在しないのではないか──コステレツキーなどの物理学者たちは、そう疑っている。一般相対性理論が不完全であることはかなり前から知られている。量子力学で説明される極めて微小な物質の法則と矛盾するのだ。コステレツキーの説明を借りれば、量子力学と一般相対性理論はより大きなパズルを構成するふたつのピースでありながら、互いに相いれない形状をしている。ピースの形を調整するため、重力は特定の条件下で微妙に振る舞いを変えうるとの理論がいくつも打ち立てられた。
マイクロスコープによる実験が失敗に終わったいま、研究者たちは別の方法に希望を託している。欧州原子核研究機構(Cern)の物理学者たちは、反物質の原子を落下させ、通常物質の原子と比較する実験をいくつか準備している。反物質の粒子が落ちるところが測定されたことはまだないため、その挙動から重力について新たな発見が生まれるかもしれない。研究チームの広報を務める物理学者、マイケル・ドーサーによると、例えば「アイギス(AEgIS)」と呼ばれる実験では、反物質の原子を砲弾のように発射して飛距離を測る計画だ。水素の反物質である反水素はすでに生成できていて、現在は2、3年後の発射実施をめどに発射装置の部品の構築と試験を行なっている。
ドーサーは、反物質の原子は通常物質の原子とまったく同じペースで落下すると考えている。しかし、もし両者の間にずれがあったり、少数派の理論で予測されているように上昇したりしたら、それはついに一般相対性理論の破れが見つかったということかもしれない。
マイクロスコープでのデータ収集は2018年に終了した。衛星は今後25年間かけてゆっくり降下させ、大気圏で燃え尽きさせる計画だ。しかし、研究チームによるデータ分析は続いている。ヘスはこのチームに参加しつつ、新たな宇宙実験計画「STEクエスト」を提案しているチームにも加わっている。この計画では、種類の異なるルビジウム同位体ふたつの自由落下を測定する。使用する機材の精度はマイクロスコープの約10倍だ。
コステレツキーはマイクロスコープの実験について、一般相対性理論は覆らなかったが、シリンダー観測の精度はひとつの成果だったと語る。彼は楽観的で、さらに高性能なセンサーが開発されれば、理論を改善するための手がかりが見つかると考えている。いまのところ、重力はかたくななまでに従来の常識に沿って振る舞っているかもしれない。だが、そこから予測できることが少なくともひとつある。物理学者たちが物を落とす科学研究を続けるということだ。
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March 27, 2020 at 05:00AM
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