現在の日本の人口は1億2600万人余り。その中でたった12人だけが、宇宙から肉眼で地球を見た経験を持っています。
今回ご紹介する『宇宙から帰ってきた日本人』は、日本人が初めて宇宙に行ってから約30年の間に誕生した、12人の日本人宇宙飛行士へのインタビューで構成された史上初の本です。
まず、この本の魅力は、各宇宙飛行士たちの言葉で「疑似宇宙体験」ができることです。ロシアの有人宇宙船ソユーズに乗りこみ、打ち上げまでの時間を待つときの心境や、打ち上げ後に段階を経て軌道に乗るまでの体感。それらの描写は、いまや見慣れたロケットの打ち上げ風景を、グッと身近に引き寄せてくれます。
また船外活動(EVA)の様子は格別です。入念な手間と段取りを経て、船内からハッチを開けて船外へ出て活動する場面の迫力には、たとえソファで寝転がりながら読書をしていても、「永遠に宇宙空間に放り出されてしまったらどうしよう!」とドキドキしてしまうほどの、読書による宇宙アトラクションを楽しめます。
名刺がズシリと重い……
「宇宙飛行士あるある」の、無重力空間の宇宙から帰還した直後の様子も実に興味深いところです。先日の朝日新聞の書評でも触れられていましたが、帰還直後に受け取った名刺がズシリと重く感じたという体験、ソユーズのカプセルが地表に着陸したときに上下が分からなくなったという表現からは、今こうしてパソコンに向かっている自分が頭を上にして椅子に座っている、また、コーヒーカップを持つ、そんな当たり前の動作もいちいち不思議なことに思えてきます。
宇宙から地球を見るということを考えるとき、いつも、昔読んだ村上龍さんの初期の短編集『ニューヨーク・シティ・マラソン』の中の「コートダジュールの雨」を思い出します。金融街でバリバリ働く主人公の男性がある日、仕事で超音速旅客機コンコルド(懐かしい!)に乗り、地球全体を眺める体験をしたことですっかり人生観が変わってしまうという話。
今回の本の12人は、幼いころからの夢がかなった人がいれば、スペースシャトル「チャレンジャー」の事故で失った同僚への思いを抱く人もいて、職業「宇宙飛行士」へ至る道のりもさまざまです。
共通しているのは、宇宙飛行士という職業に就くぐらいだから、おそらく常人よりはるかに強靱(きょうじん)なメンタルの持ち主であること。その彼らが、絞り出すように語る地球への賛辞は極めてシンプルで、だからこそ言葉にならない感動がよりストレートに伝わってきます。
この本の中で何度も語られるのは、かけがえのない「地球」という星の圧倒的な存在感と美しさ、そして環境破壊が進んでいる様子。平面ではなく立体としての生きている地球に対峙(たいじ)した宇宙飛行士が語る、「ひょっとするとあとは時間の問題なのではないか」「私たちの命を支える空気や水はこれしかないんだ」という言葉は重く響きます。
2020年以降、星出彰彦さんと野口聡一さんが国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する予定もあり、一般向けの商業飛行も開始するようです。美しい地球を肉眼で眺める人がどんどん増えることは、地球という奇跡の存在を宇宙飛行士レベルで語れる人が増えるということになるのではないかと期待します。
そしてきっと、いま宇宙に行ける一般人はお金持ちの人が多いはず。地球に帰還後、地球環境のために投資をしてくれれば……などと、思いだけはロケットのごとく飛躍してしまいます。
近い将来、「百聞は一見にしかず」と地球を眺めて言える日が来るまでは、宇宙飛行士の言葉でたっぷりと宇宙空間を楽しんでみませんか。
(文・川村啓子)
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February 03, 2020 at 10:37AM
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