持ち主は松江市出身で、神戸市垂水区の主婦、沓屋(くつのや)みゆきさん(54)。神戸で結婚し、震災当時は同市東灘区の社宅で夫と長男と3人で暮らしていた。
95年1月17日午前5時46分。大きな揺れに驚き、長男を抱きかかえ、おむつを手に、近くの公園に逃げた。最寄り駅では火の手が上がり、10階建ての社宅は傾いていた。
凍えながら避難者たちと身を寄せ合っていると、知人の両親が車で伊丹空港近くまで送ってくれた。出雲空港に降り立ち、出迎えた父の顔を見ると安堵(あんど)の涙がこぼれた。
松江に帰り、山陰中央新報社に勤務する同級生に「何もなくなってしまい、困っている」と相談。新聞の持ち物寄贈コーナーで呼び掛けることを提案され、すぐに市民がベビー用品一式を届けてくれた。その中にベビーカーがあった。家財を失い、子育てに不安を覚えていた中、存在感が心強かった。
年子で生まれた長女も乗せて育てた。県内外で引っ越しを繰り返すうちに装飾が剥がれ、手放す機会はあったが、どうしても捨てられない。「重い物も運べるし」と、宅配物やたまった新聞の運搬に活用し、今日まで現役だ。
2人の子には震災当時の出来事を語って聞かせた。長男の魁さん(25)は今春大学院を卒業し、会社員になる。長女の百華さん(23)は小学校教員として、自身が震災教育をする立場になった。震災では苦労や悲しみがあった一方で、自分たちに温かい善意が寄せられたことを改めて話したいという。
心残りは、送り手に対して、十分なお礼が言えなかったことだ。「途方に暮れていたところに手を差し伸べられ、勇気が湧きました。無事に子どもを社会に送り出せ、本当にありがたく思っています」。どんなにぼろぼろになろうと、ずっと大切に使うつもりでいる。
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January 16, 2020 at 09:17AM
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山陰中央新報社|阪神大震災 松江避難中 被災母子支えた善意のベビーカー - 山陰中央新報
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